楽天の三木谷浩史会長兼社長が語るコロナ危機(4/24)

新型コロナ危機に対する行動姿勢は政治家もさることながら、経営者が有事の際どのような行動をとるかもうかがい知ることができる。楽天の三木谷さんは阪神大震災で敬愛していた叔父叔母を失ったという経験をしていることもあると思うが、一貫して人命第一の視点で常に行動しているように思う。こうした経営者を応援していきたい。

以下、東洋経済に掲載された記事を抜粋:

楽天の三木谷浩史会長兼社長が語るコロナ危機
「世界は戦時下にある、傍観者ではいられない」
東洋経済 記者2020/04/24

新経済連盟を通じた情報発信、政府提言に、個人で所有するホテルの無償提供。「対コロナ」に精力的に動く楽天の三木谷浩史会長兼社長は、今回の危機をどうとらえているのか。

――欧米では感染拡大が広がりました。現在までの日本の感染拡大防止策をどう評価しますか。

感染拡大に失敗した欧米と比較しても仕方がないよね。今のところ、完全に封じ込めに成功したといえるのは韓国、台湾。これらの国と比較すると、日本はPCR検査の数が圧倒的に少なく、感染の実態がわかっていないのが最大の問題だ。

海外の経営者と話している中でも、「日本はなぜそんなに検査数が少ないのか」とよく言われる。意図的に隠しているんじゃないかと。1日の検査数を2万程度まで増やす議論もされているけど、5万、10万でないと話にならない。

大量に検査しない理由として、陽性者が病院に殺到して医療崩壊が起きる懸念が強調されている。だけど、それはホテルなどの別の施設を用意して隔離すればいいのであって、重症化しそうであれば病院で薬を試して、それでもダメなら人工呼吸器、という流れだと思う。そういうオペレーションは3~4日で確立できるはずなのに、今の行政にはスピード感がない。

――韓国にはMERS(中東呼吸器症候群)の時の経験がある。

そうかもしれないが、今それを言っても仕方ない。経験や準備がなかったとしても、ベンチャー的なスピード感で作るしかない。PCR検査の精度は、医者がやろうがセルフでやろうがさほど変わらないという報告も出ている。いずれにしろ100%の精度ではないんだから、それを前提にして、セルフサービスの検査をどんどん推し進めるべきではないか。

韓国ではドライブスルー形式、ウォークスルー形式など、クリエイティビティを感じる検査体制が次々と出ているよね。こういう検査なら病院に出掛けることによる感染リスクも少ない。日本でもそういう体制を作ることができれば、と思う。

楽天では、出資先で遺伝子検査キットを提供しているジェネシスヘルスケアと連携し、簡易的に検査できる仕組みを法人向けに提供し始めた。こんなものは数億円単位でできるプロジェクト。国には、こうしたものを保険適用にする、後で全額返金するなどの形で、民間のパワーを活用してほしいと思う。

――コロナ対応に積極的に関与する理由は?

とにかく「わからない」ことが多すぎるので傍観者ではいられない。「日本人はBCGワクチンを接種しているから死亡率が低い」という説が唱えられているけど、それは今までのデータに照らして可能性を言っているだけの話だ。WHO(世界保健機関)は「マスクに予防効果はない」と言っていたり、感染が始まった当初は「無症状の人からは移らない」と思われていたりしたけど、これらの認識も世界中で変わった。

ましな状況に見える日本も、実はイタリア、スペイン並みの感染者がすでにいるのかもしれないし、東京がいつニューヨークのようになるかもわからない。こういう場合には最悪のケースを想定して動かなければ。今、楽天や僕個人で動いていることは、いつか「取り越し苦労だったね」と言われるかもしれないけど、それならそれでいい。

――思い切った感染防止策には、経済的なダメージが伴う。

それはもう、後から何とかするしかない。経済崩壊の前に、社会崩壊が起きそうな状況なので、まずは目の前の感染封じ込めに集中しなければ。中途半端なことはしないほうがいい。もちろん、それによる痛みは出る。痛みを被る人たちには、短期的には多少乱暴な形でも国として補償をすればいい。

――楽天の取引先にも痛みを被る事業者は多い。支援をしますか。

例えば飲食店に対しては、店頭受け取りの注文管理を行えるプラットフォームの提供を始めた。まずは米国の特定地域の13店からスタート。これを全米に広げたいと思っている。日本でも提供に向けて準備中だ。

ただ、まだまだ手が回っていない状態だと思う。それに、影響範囲を考えれば楽天グループだけの財務的支出で賄えるはずもない。公的支援の拡充も当然不可欠だ。

――直近では病院のオンライン診療において初診が解禁になるなど、徐々に規制緩和が進んでいます。どう評価しますか。

結果的にそうなった、というイメージかな。ただオンライン診療、オンライン学習、オンラインワークのどれを取っても、まだまだ官民での準備が足りないし、急増する需要に対してキャパシティが追いついていない。ゴールデンウィークが終わってすぐ学習環境や働き方を以前のように戻せるとも思えないので、それを見越して手当てしておく必要はある。

延期でも残る五輪リスク
――「コロナ後の世界」を考えたとき、どんな点に着目しますか。

まず何よりも事態収束に向けての、医学的な点に注目している。ワクチンがいつできるのかによって、2~3カ月の勝負なのか、数年単位で影響が残るのか、シナリオは変わってくる。

ただ確実に言えるのは、今回のコロナ危機で人間の行動パターンが変わったということ。例えば、各国間の移動だ。感染を封じ込められたとして、鎖国状態になっている国をどういう条件で開くのか。かなり複雑な話で、僕にはまだソリューションが思いつかない。

来年の夏に延期された東京五輪にも開催リスクはある。何百万人という訪日客を受け入れられるのか。なんで1年後にしたのか、2年後などの選択肢もあったのではないか、という問いもある。

――価値観が変わりましたか。

今まではオフィスに出て、皆でわいわいと仕事をするのがいいと思っていたけど、そこは考えが変わった。リモートワークをしてみると、作業効率は上がるし、電話をかけても皆すぐ出てくれるし。もしかして会社に出なくて全然いいんじゃない?と。実際、今めちゃくちゃ忙しい。毎日、これまでの3倍くらい働いている感じだ。

――具体的には、毎日どのように過ごしていますか。

まず朝起きて、最初の仕事は役員全員でのラジオ体操と座禅。それが終わったら、この春に入社した社員に対し、毎日30分講習をしている。毎日というのは普通無理だし、今までもやったことがなかったけど、リモートだから実現している。その後は楽天モバイルの件、ジェネシスヘルスケアとのPCR検査の件など経営関連の会議や確認が続いて、大体朝7時半から17~18時くらいまで切れ目なく仕事をしている。

これらはすべてリモートで行っていて、僕自身はほぼずっと自宅にいる。リアルにはまったく誰とも接していない。8割どころか、99%カットだ。

――今後の事業戦略も変わる?

まだ総括するには早いし、自分自身にそれだけの余裕もない。(光免疫療法の研究開発を行う)楽天メディカルを通じて、がん治療の進展には貢献できるかもしれないと思っていたけど、まさか自分が感染症に翻弄される世界に生きるとは想像もしていなかった。

ただ、人類の歴史をたどれば、スペイン風邪もそうだけど、過去に感染症との戦いは何度もあった。技術レベルが高まっている中で、今度こそ人類が感染症というものに打ち勝つ転機になるのかもしれない。楽天というITグループとして、また新経済連盟という経営者団体として、どういう行動や提言ができるか今後も考えていく。

――日本の経営者は今、どんな心構えを持つべきだと思いますか。

過激な言い方だけど、今は「戦時下」だと思って行動したほうがいい。現に米国では明確に「戦争」と言っている。繰り返しになるが、日本でも米国のように感染者、死者が爆増する可能性を否定できない以上、企業にも政府にも最悪を想定してほしい。

ウォルマートのCEOとも先ほど議論したのだが、海外の経営者と話していて意見が一致するのは、「もうこれから数カ月の業績はどうでもいい」ということ。宿泊予約の楽天トラベルは旅行者が減って厳しい状況だけど、今は(コロナに感染した軽症者の受け入れに)協力してくれるホテルを募ったり、受け入れる際のオペレーションをサポートしたりという活動に最大注力している。どう稼ぐかは後から考えればいい。

幸いというべきか、楽天にはネット通販とか、金融とか、コロナ影響が業績にプラスに働いている事業もある。それ以外の部分では、今はとにかく社会貢献しようと、社員と日々話している。

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